それがノスタルジーへと変わる前に

「音楽やってる人はかっこいい アイドルやってるコはかわいい とか あれから何年が経ったんだっけ 時々自分がわかんなくて それすらも当たり前になって 久しぶりに君と話したいね なんて思ってる 電話はしないけど」

午前1時30分発山梨行き

先週、KIRINJIとYonYonの「killer tune kills me」を聴いていたとき。

「この曲聴きながら夜中にドライブしたい」と言うと、「じゃあ来週の木曜に行こうよ」と恋人は言った。

いいじゃん、決定だね、じゃあどこに行こう。近場だよね。じゃあ山梨にしよう。ほったらかし温泉っていう有名な温泉があって、この間観てた『ゆるキャン△』でも出てた温泉で景色が最高なので(早口)。

 

水曜日。仕事終え、実家で車を取り、3時間の仮眠を経て、山梨県への小旅行をスタートした。

国立府中インターから高速に乗る。道中、「学部の頃、お金がなくてこの道を通って自転車で大学に行っていたんだ」などと話していた。

高速では、大型トラックが僕らの乗る軽自動車をどんどん抜かしていった。

「危ないね。急いでないし、ゆっくり行こう」。

 

談合坂サービスエリアで休憩をするために車を降りる。深呼吸すると、少し湿った山の空気が肺を満たす。空はまだ暗い。フードコートは儚げに光る。深夜に運転するドライバーのため、フードコートは24時間営業だった。深夜のラーメン、カレー、すき家の高菜明太マヨ牛丼。どれもが魅力的に映る。募る食欲を自覚しつつ、「たくさんお菓子買ったもんね、大丈夫大丈夫」と言う。恋人に言うというよりも、自分に言い聞かせる、という方が正確かもしれない。

 

午前4時過ぎにほったらかし温泉に到着する。湯に浸かると疲れがどっと肩にのしかかる。ウトウトしながら、ぼーっと頭に浮かんでくるのは、将来のこと。

このまま修士での学びの延長を職として生きるか。このまま恋人と生きていくことになるか。

 

 

この間恋人と喧嘩したのを思い出した。

僕も彼女もお互いにイライラを募らせてそれを堪えようとしているが、互いに堪えきれず態度や言動に出してしまった結果、「もういい、別れる」と言い出す恋人に「落ち着こう、話そう」と諭す自分。“「別れないためにあるべき振る舞い」をする自分”を認識しつつ、「このまま別れたらどうなるだろうな」と冷静に考えていた。これは自己防衛の一種だった。

まずは恋人の家を出る。自分の家の電気と水道、そしてガスを契約し、開ける。家具はどうしようか。めちゃくちゃお金かかるなあ。きっと真っ先に文通相手に連絡取るだろう。

そこまで考えて、その先を考えるのをやめようと思った。

 

別に文通相手を今の恋人よりも好きとか、そういう話ではない。今の恋人の存在やら価値観には救われていることは多いし、本当に助けられている。

ここでないどこかに向かいたいという欲求、誰かの救いでありたいという欲求、恋愛とか結婚など多くの人間が前提としている価値観への抵抗が自分の中で強かったりするだけ。

文通相手の存在をこの世界に規定する言葉を見つけたいなと、今は思っている。

「前の会社の人とか、大学の友達とか、全部関わりは切ったけれど、連絡しました」という言葉を、引き受けていきたい。

自分の今いるこの場所を、世界線を、自分のものとして強く了解する必要がある。そういうことを胸に留めて生きていかなくちゃと思うわけだ。

 

 

そんなことを、湯船から甲府盆地を眺めつつ、考えていた。時折日が差したが、曇りでよかった。快晴だったら全身日焼けしていたに違いない。

午前7時になるころ、休憩室でウトウトしていたら恋人が戻ってきた。母国からの旅客がいて、嬉しくて女湯でずっと話し込んでいたという。女湯は5人ぐらいしかいなかったらしい。男湯は常時その倍はいた。

その旅客は家族4人で旅行に来ていたらしく、彼女と自分を含む6人で話していた。僕は彼らの使う言葉を分からないので、彼女に通訳してもらいながらコミュニケーションを取っていた。2009年まで日本で暮らして、今は彼女の母国の首都で暮らしているとか。もうすぐ大学生になる娘は日本語を独学で勉強していて、将来日本でデザインの仕事をして暮らしたいらしい。「日本は住んでいたとき(11年前)と街並みが変わらなくていい。落ち着く」と言われて、もちろん彼らは褒めてるのだろう。しかし選挙もあったことで敏感になっているからか、停滞的なこの社会、国への皮肉っぽくも聞こえて少しだけモヤモヤした。

 

その後は桃のパフェを食べ、次にほうとうを食べて帰路についた。「食べる順番逆じゃんね」と言いながら笑っていた。

16時に家に着き、シャワーを浴びて昼寝をした。20時に起きて、近くの定食屋で晩ご飯を食べて家でテレビを見たりした。カルピスは彼女の実家の地域にそのルーツがあるという。今度行くときに手土産としてカルピスを持っていこう。

 

心地よい疲労感を噛み締めながら、再び眠りについた。