KENT SPARK 5mg
学会発表を翌日に控えている。
仕事終わり、なんとか会場近くのホテルにたどり着く。昭和の香りのする、寂れたホテルだ。
このホテルの客室は、禁煙/分煙がスタンダードな令和元年に、全室喫煙可。
友人を思い出しても、タバコを数人は圧倒的に少数派。そんな平成生まれ平成育ちの僕には、昭和の香りとは、タバコと共にある気がする。つまりだ、この客室にはタバコの匂いが染みついているということだ。
午後11時。
柄の錆びた折り畳み傘を片手に、雨の夜道を歩く。僕の体格からして、明らかに小さいサイズの傘。ズボンも、うっすらと濡れている。目的地は、徒歩10分ほど歩いた先にあるコンビニだ。歩きながら、様々なことを考える。明日の発表のこと、職場へのお土産のこと、文通相手のこと。
ここで文通相手のことを思い出したのは、きっとタバコの香りのする部屋に泊まるからだろうなと、そう思っていると、お酒と共にタバコを吸いたいような気持ちになった。買ったのは、ちょっと遅めのお弁当、発表準備の作業用にエナジードリンク、文通相手の吸っているタバコ、お酒。700円の会計で1枚引けるクジは、ハズレだった。
コンビニを出て、傘を開く。片手に傘とコンビニのレジ袋を、もう片手で、スマホをいじる。iPhoneの画面に、“green line of death”は、もうない。
LINEの通知は100件以上溜まっている。企業アカウントの広告のメッセージを開く気になれず、こうして溜まっていく。だから、友人からの連絡に、気づかないことも多い。
文通相手の名前の横に、通知の①のマークが出ている。
文通相手に対しては、今年の夏頃に無配慮な言葉を投げてしまい、それに関しては完全に自分に非がある。それによって文通相手との関係も終わったと思っていたので、比喩でもなく、その通知を見たときには文字通り目を疑った。
「他に頼れる人もいないので」との前置きに、心が揺れる。
僕にとっての君はなんなのか、君にとっての僕はなんなのか。
文通相手に関しては、(「今後関わらない」という関係性も含む形で)関係し続ける限り、ここに向かい合わなければいけない。
これは個別的表面的関係における規範としての善悪の問題でなく、僕が性別役割を降りて他者と関係し続ける限りにおいて、向かい合わなければいけない。婚姻や家父長制を前提とした恋愛的な文脈に安易に流されたくねえぞ、そういう気持ちがある。
換気のために窓を開けると、冷気が入ってくる。もう、冬に向かいつつあることを感じる。
KENT SPARK 5mgを吸いながら、ブログを書いている。初めてこのタバコを吸った時は、むせていたのを思い出す。一年前の話だ。